前提的問題について

精神分析とトランスジェンダーに関連する文献等を紹介します。

同性愛の息子をもつ母親へのフロイトの返信

 この記事で紹介するのは、精神分析の祖、ジークムント・フロイトがあるアメリカ人女性に宛てて書いた手紙を私が日本語に翻訳したものです。フロイトが同性愛についてどのように考えていたかが端的に示されています。

 手紙の原文(英語)は以下のウェブサイトで読むことができます。

https://en.m.wikisource.org/wiki/A_Letter_from_Freud_(to_a_mother_of_a_homosexual)

1935年4月9日

ウィーン IX、ベルクガッセ 19

 

親愛なる[削除済み]様

 あなたの手紙から、あなたの息子さんは同性愛者であることがわかります。もっとも印象的だったことは、息子さんについての情報を述べる際に、あなたがその用語に言及しなかったことです。なぜそれを避けられたのか、お尋ねしてもよろしいでしょうか? たしかに同性愛は利点などではありません。しかし、それは恥ずべきことでも、悪徳でも、劣っていることでもありませんし、それを病気に分類することもできません。私たちはそれを性的発達のある種の停止によって生じる性的機能のバリエーションのひとつであると考えます。古代の、そして現代の大いに尊敬すべき人々の多くが同性愛者でしたし、そのなかには偉人と呼ばれる人たちもいるのです(プラトンミケランジェロレオナルド・ダ・ヴィンチなど)。犯罪として同性愛を迫害することは大変不当な行為ですし、残酷なことでもあります。もし私の言うことが信じられなければ、ハヴロック・エリスの著書をお読みになってください。

 私に手助けが可能かどうかをお尋ねになっていますが、私が思うに、あなたが言わんとしているのは、私が同性愛を消滅させ、その代わりに通常の異性愛をもたらすことが可能かどうか、ということですね。一般的なことになりますが、そのような約束はできない、というのがその答えです。いくつかのケースでは、私たちは枯れかけた異性愛的傾向の萌芽を発達させることに成功しました。そのような傾向はあらゆる同性愛にみられるものです。しかし、大多数のケースでは、そんなことはもはや不可能でした。それは個人の性質と年齢の問題なのです。治療の効果は予測できません。

 分析が息子さんのためにできることは、それとは別の種類のことです。もし息子さんが社会生活において不幸で、神経症的で、葛藤に引き裂かれ、抑制的になっているとしたら、分析を受けることで調和や心の平穏がもたらされ、最大限に能力を発揮できるようになるかもしれません。同性愛者のままであるか、変化するかは関係ありません。息子さんに私の分析を受けさせようと決心なさった場合には——あなたがそうすることはないと思いますが——、ウィーンまで来てもらわなければなりません。私はここを離れる気はありませんから。とはいえ、忘れずに私にお返事をお聞かせ願います。

 

敬具

 フロイト

 

追伸

 あなたの手書きの文字が読みづらいとは思いませんでした。私の書いた文字と英語が読みづらいものでないことを願っています。