社会派イタリアン・ポップスの名曲:Pierre
はじめに
この投稿は、有名なイタリアのポップ/ロック・バンド、イ・プーI Pooh(のちに定冠詞を省略してプーPooh)によるヒット曲「ピエール」Pierreを紹介するものです。
この曲について
この曲は、1976年のアルバム『プーラヴァー』Poohloverに収録されており、ライブでもよく演奏される彼らの代表曲です。
2016年の再結成の際、他のヒット曲とともに、この曲もリレコーディングされ、ミュージックビデオとしてYouTubeに公開されました。このミュージックビデオはそのときのものです。
Pooh - Pierre (Videoclip)
このミュージックビデオをはじめて観たとき、私は意外なストーリー展開(2分40秒あたりから)に驚いて、急いで歌詞の内容を確認しました。ミュージックビデオのとおり、この曲はトランスジェンダーについて歌ったものでした。
Poohのウェブサイト上ではこの曲のテーマを「同性愛omosessualità」と説明しているようですが(Pooh Official WebSite » POOH 50 » NUOVI SINGOLI » Pierre : https://pooh.it/pooh-50/nuovi-singoli/pierre)、歌詞の内容からはむしろ「トランスジェンダー」のように思われます。
……かつての同級生ピエールは、当時から他の男の子たちとは何かが違っていました。大人になった主人公は、ある夜、女性の服を着てメイクをしたピエールを見かけてしまいます。ピエールは主人公から目をそらし、主人公は当時のことを痛みとともに思い出すのです……
このアルバムで、イ・プーはこの曲以外にもさまざまな社会問題―—ロマ(ジプシー)の人々、囚人、売春など―—について歌っているようです(progarchives » POOHLOVER: http://www.progarchives.com/album.asp?id=19131)。
2005年に発売された日本盤CDの解説も確認しましたが、残念ながら、歌詞の内容には触れていませんでした。歌詞の日本語訳はネット上でも読むことができます(lyrictranslate » Pooh -Pierre(日本語の翻訳): https://lyricstranslate.com/ja/pierre-pieru.html)。
同じテーマを扱った曲
実は、私はこの曲を以前から知っていたのですが、歌詞の内容まで気にしたことがありませんでした。このテーマを社会問題として扱った曲は珍しいのではないか、と思ったのですが、同じようなテーマを扱った比較的有名な曲があったことを思い出しました。著名なシャンソン歌手、シャルル・アズナブールCharles Aznavourの名曲「人々の言うように」Comme ils disentです。
Charles Aznavour - Comme ils disent
この曲の歌詞は、Pierreとは異なり、トランスジェンダーまたは同性愛の当事者の視点で語られたものです。この曲は日本語でもカバーされており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
それでもやはり、性的少数者の本人ではなく、その元クラスメートの視点から語られるPierreの歌詞には、聞くものの心に突き刺さるものがあります。ミュージックビデオのラストで主人公がデスクを叩きつけているのは、当時の自分がピエールに対してとった言動に対する後悔(加害トラウマといってもいいかもしれません)がゆえでしょうか。
性的少数者の問題への取り組みがあらためて求められている現在、この曲Pierreが日本でも注目される日が来るかもしれません。
追記:2020年11月6日、Poohのドラマー、ステファーノ・ドラッツィオ氏が逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。